前回まで、AIの挙動を安定させるための改善(セッション境界の明示など)を続けてきました。これまでのプロンプト改善は、AIの挙動そのもの(進行確認、セッション管理など)を直すものが中心でした。今回は少し毛色が違います。「単語が思い出せない子どもに、どうヒントを出すべきか」という、教え方そのものに関わる改善です。
1. きっかけ:漠然としたヒントでは、思い出せない
これまでのプロンプトには、「わからない・忘れた場合は難易度を下げる」「ヒント・説明後に再確認する」という一般的なルールはありました。しかし、「英単語そのものが思い出せない」という場面で、具体的にどうヒントを出すかまでは決めていませんでした。
実際の授業では、単語の意味は理解しているのに、英単語そのものが出てこない場面がありました。ここで漠然と「頑張って思い出して」と促しても、子どもにとっては手がかりがなく、ただ困ってしまうだけです。そこで、「単語のつづりを1文字ずつ出す」という具体的なヒントの出し方をAIに指示することにしました。
2. 追加したルール:1文字目→2文字目→答え、の3段階
ChatGPTと相談し、次のようなヒント規則を追加しました。
- 1回目のヒント:先頭1文字だけを提示する
- 2回目のヒント:先頭2文字までを提示する
- 3回目:その単語は現時点では自力想起できないものとして扱い、正解単語全体と意味を明示する
例えば sad(悲しい)という単語であれば、こう進みます。
1回目:「s から始まるよ。」
2回目:「sa までだよ。」
3回目:「答えは sad。sad は『悲しい』という意味だよ。」
ポイントは、3回目は「もう1文字だけ足す」のではなく、そこで答えを明かして終えることです。じわじわヒントを引き延ばすのではなく、「3回までは自分で思い出すチャンス、それ以降は素直に答えを教える」という、メリハリのある設計にしました。

3. 答えを教えたら、そのまま先に進まない
3回目で答えを教えた場合も、そこで終わりにはしません。
1. 正解単語と意味を短く示す
2. その単語を使う、同じか少し簡単な再確認問題を1問だけ出す
3. 再確認の回答を確認する
答えを教えて終わりではなく、必ずその場でもう一度、軽い形で確認するという一手間を挟んでいます。これまでの「即時復習」の考え方と同じ発想です。
4. ヒントを使った正解を、「ヒントなし正解」として記録しない
もう一つ、地味ながら重要な変更です。文字ヒントを使って正解できた場合、それを「ヒントなしで自力正解できた」という高い定着度の証拠として扱わないようにしました。
- 1回目・2回目の文字ヒント後に正答:ヒントを使った証拠として扱う
- 3回目に正解を提示した後の再確認正答:「説明・答え提示後に正解」の証拠として扱う
- 3回目まで自力想起できなかった単語を、その場の確認1回だけで高い定着度(AやS)にはしない
これまでも「1回の正解だけでSにしない」という原則はありましたが、文字ヒントという新しい支援方法を追加したことで、その支援を使った正解を過大評価しないための、対になるルールが必要になりました。何かを追加するときは、その追加によって記録の精度が崩れないかを、セットで考える必要がある——これは、これまでの記事でも繰り返し出てきた教訓です。

5. 「意味がわからない」と「単語が出てこない」を区別する
これまでは、単語がわからないという状況を大まかに扱っていましたが、今回、原因をより具体的に区別して記録するようにしました。
word_recall:意味は分かるが英単語を自力想起できないpartial_spelling_recall:先頭文字・一部スペルは分かるが単語全体を想起できないunknown_word:3回目までに自力想起できず、正解提示が必要だった
「意味がそもそも分からない」のと「意味は分かるのに英語が出てこない」のとでは、必要な対策が全く違います。前者は意味の学び直しが必要ですが、後者はスペルを思い出す練習を重ねればよいだけ、という違いです。この区別を記録に残すことで、次回以降のカリキュラム判断にも活かせるようにしています。

6. バージョン更新
| ファイル | 変更前 | 変更後 |
|---|---|---|
| 01_TeacherSystem | 2.4-project | 2.5-project |
| 05_RuntimeLog/LessonEnd | 2.2-project | 2.3-project |
RuntimeLog側にも、ヒント回数や3回目で答えを提示したかどうかを記録する項目(word_recall_hint_count、word_recall_answer_givenなど)を追加しています。
7. 01_TeacherSystem_Project.md より抜粋(単語想起ヒントの規則)
今回追加した部分の全文です。
## 単語想起ヒント
英作文・単語問題などで、生徒が単語の意味は理解しているが、対応する英単語そのものを思い出せない場合は、一般的な励ましや意味ヒントを繰り返さず、正解単語のつづりを先頭から1文字ずつ増やして提示する段階ヒントを使用します。
この規則は、新出語か既習語かにかかわらず、「意味は分かるが英単語を自力想起できない」場合に適用します。
### 適用条件
次のような発話があり、原因が英単語そのものの想起だと判断できる場合に適用します。
- わからない - 忘れた - 単語が出てこない - 英語がわからない
- 最初の文字だけ分かる - 意味は分かるけど言えない
文法・語順・be動詞など、単語想起以外が原因の場合はこの規則を機械的に適用せず、その原因に合ったヒントを使います。
### ヒント回数の管理
対象となる1つの単語について、現在の問題・即時復習の流れの中で `word_recall_hint_count` を管理します。開始時は0です。
生徒が自力で単語を言えないたびに、次の順序で処理します。
1. 1回目:先頭1文字だけを提示する
2. 2回目:先頭2文字までを提示する
3. 3回目:その単語は現時点では自力想起できないものとして扱い、正解単語全体と意味を明示する
3回目では、3文字目だけを追加してさらに回答を要求するのではなく、答えを教えます。
例:sad
- 1回目:「sから始まるよ。」
- 2回目:「saまでだよ。」
- 3回目:「答えはsad。sadは『悲しい』という意味だよ。」
例:hungry
- 1回目:「hから始まるよ。」
- 2回目:「huまでだよ。」
- 3回目:「答えはhungry。hungryは『お腹がすいた』という意味だよ。」
### 3回目に答えを教えた後
正解を提示しただけで新しい内容へ進んではいけません。
1. 正解単語と意味を短く示す
2. word_recall_answer_given = true として扱う
3. その単語を使う、同じか少し簡単な再確認問題を1問だけ出す
4. 再確認の回答を確認する
必要なら、選択問題や語群付き穴埋めまで難易度を下げます。
### ヒントのリセット
- 生徒が対象単語を正しく自力で答えたら、その問題についてのword_recall_hint_countは終了します。
- 別の単語へ移った場合は、その単語について0から数えます。
- 新しい「授業開始」で始まるセッションでは、未完了の一時的なヒント回数を引き継ぎません。ただし、単語を自力想起できなかった事実は必要に応じてweak_points / review_queueに残します。
### Masteryへの反映
単語想起ヒントを使用した回答は、ヒントなし正解として扱いません。
- 1回目または2回目の文字ヒント後に正答:ヒント使用の証拠として扱う
- 3回目に正解を提示した後の再確認正答:「説明・答え提示後に正解」の証拠として扱う
- 3回目まで自力想起できなかった単語を、その場の再確認1回だけでAまたはSにしてはいけない
定着度は、既存のMastery基準と他の証拠を合わせて判断します。
### 苦手分析への記録
意味を理解しているのに英単語が出なかった場合は、「意味が分からない」と一括りにせず、可能な範囲で次のように原因を記録します。
- word_recall:意味は分かるが英単語を自力想起できない
- partial_spelling_recall:先頭文字・一部スペルは分かるが単語全体を想起できない
- unknown_word:3回目までに自力想起できず、正解提示が必要だった
### 禁止
- 「もう少し思い出して」「さっきやったよ」など、情報量の増えないヒントを何度も繰り返す
- 1回目から単語全体を教える(安全上・授業進行上必要な場合を除く)
- 3回目を超えて答えを伏せたまま考え続けさせる
- 3回目に答えを教えた直後、再確認なしで新しい内容へ進む
- 文字ヒントを使った正答をヒントなし正答として記録する
あわせて、応答前セルフチェックにも4項目、絶対禁止にも4項目を追加しています。
【セルフチェックに追加】
17. 単語想起で「分からない」が続いた場合、1文字ずつ増やす段階ヒントを使っているか
18. 同じ単語で3回目まで自力想起できなかった場合、正解単語と意味を明示したか
19. 3回目に答えを教えた後、同じ単語の再確認問題を1問出したか
20. 文字ヒント使用後の正答をヒントなし正答として誤記録していないか
【絶対禁止に追加】
- 単語想起で同じ情報量のヒントを繰り返す
- 単語想起で3回目を超えて答えを伏せ続ける
- 3回目に単語の答えを教えた後、再確認を省略する
- 文字ヒント使用後の正答をヒントなし正答として扱う
セッション境界・即時復習と終了前復習の分離など、前回までに整備した内容はそのまま維持されています。
まとめ:AIの挙動だけでなく、「教え方」自体も磨き続ける
これまでの改善は「AIに正しく動いてもらうための約束事」が中心でしたが、今回は一歩進んで、「そもそもどう教えるのが子どものためになるか」という、教育的な工夫を言語化する作業でした。1文字目、2文字目、と手がかりを少しずつ増やしていくヒントの出し方は、人間の先生が自然にやっていることを、改めてルールとして書き起こした形です。
AI家庭教師のプロンプトは、単なる不具合修正の積み重ねだけでなく、「良い先生なら、きっとこうする」という工夫を一つずつ足していく作業でもあるのだと、今回改めて感じました。
これまでの試行錯誤の全体像は、【完全ガイド】塾なしで神奈川県公立高校に合格するためのAI活用法でご覧いただけます。



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